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旧ディジョン日記(移転しました)

以前フランスの地方都市ディジョンでフランス語を学んでいました。

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「バカ」の壁

 タイトルは、一昔前にベストセラーになった養老猛司さんの同名の著書とは関係がありません。

 僕にしては珍しく、リアルタイムな話題にコメントします。しかも長いんですが…。まぁ久しぶりの更新なので、気合が入ってます。また話題も話題なだけに。

 平野復興担当大臣の発言が、数日前の「私の知人のように(津波に対して)逃げなかったバカもいる」という発言です。大して問題にはなっていない印象ですが、この発言には、メディアが言外に含ませている意味でも、つまり「死者に対して、またはその遺族に対して、あまりに配慮にかけたものである」という意味でも、当然軽率な発言と言えますが、僕がこのような政治家の失言に対して時折思うのは、日本語のボキャブラリーの貧困さに目を覆いたくなります。

 つまり、発言の内容とは違った次元で、言うべきことがあります。表現の問題、「バカ」という語彙を使って表現したことに絡ませて、ちょっと説き起こしたいことがあるんです。これは僕がフランス語の語学学校で耳にタコができるほどよく聞いた話です。

 語学学校の初級を終え、中級以降に進むと、表現を拡張するという目的で、「言語水準」Niveaux de la langue という話題になります。まぁ、日本語に当てはめてざっくり言うと、口語体と文語体の違いってやつがあるでしょ。そんな話です。当ブログでは、僕は基本的には口語体 で書き、時に文語的な語彙を使ったりしているつもりです。まぁ、僕のブログはテキストが長いブログなので、硬めの印象を抱かれている方もいるかもしれません。

 フランス語の語学学校で習ったのは、文語・口語という区別よりもうちょっと細かい区別です。また、フランスの中学校教師の「国語」教師に、学校で何をしているのか、というお話しを伺ったこともあり、一般的にフランス人は、この区別に日本人なんかよりよっぽど敏感なんじゃないかなぁ…なんて思ったこともあります。勿論、日本語には敬語があるので、「話し相手により会話のスタイルは変えるべき」というのは当然のことですが、フランス語の場合は、時として語彙の選択に(まで)しっかり踏み込んでいる、という点にあるような気がします。その区別とは…

1. Soutenu
2. Standard / Courant
3. Familier

 1が、最も改まった形。2がふつうの表現。3は親密な間柄の表現です。また必ずしも文語/口語という区別には当てはまりません。

 文法事項にも、この4つのスタイルの違いが出ていて、例えば、「何をしていますか?」と言う場合にも、次の3つの例文が出てきます。

1. Que faites-vous ?
2. Qu’est-ce que vous faites ?
3. Vous faites quoi ? (Tu fais quoi ?)

また、3はfoutre や ficher という動詞を使えば、このようにも言い換えられます。下の例ではfoutre を使っておきます。

・Vous foutez quoi ?
・Qu’est que tu fous ?

foutre は、品のよろしくない動詞なので、使うときには注意が必要です…。文脈によってはVulgaire にもなります。つまり卑猥なニュアンスを帯びるわけですね。

また、↑の3つの区別の他にも

・Argot(仲間言葉)
・Vulgaire(下品な言葉)

という区別もあります。これらの区別は、仏仏辞書なんか使えば結構細かく載っていたりします。日本語の辞書だと《話》、《俗》という区別で済ませてしまっていて、場合によっては、仏仏辞書の区分と対応してなかったりするので、こういう場合はやはり仏仏辞書をお奨めします。

 さて、マクラに振った「バカ」の話なのですが…日本語ではフランス語にあるような言語のレベルというのはあまり意識されないと思います。が、やはり僕は、かなり広い文脈で使われるが故に注意が必要な語彙だと思うんです。つまり、政治家がこんな語彙を使うのは、どうかなぁ…って思ったりします。これは時と場合によるんですが…

 「バカにそいつにご執心じゃないか」
 「勉強バカ」
 「バカなこと言うな」
 「あいつはバカだ」

とまぁ、言うまでもないですね。「勉強バカ」と使えば、決して否定的なニュアンスだけではないですよね。しかし、原則的には「バカ」という言葉は、話し言葉でかつ砕けた会話調の時に使われるべきと僕は思います。政治家としては、「バカ」というあまりに広い意味を持つ(=どうとでもとれる)語彙を用いるべきではなく、「バカ」の類義語を使うべきだと思うんです。例えばですね…例えば先の平野大臣の発言が、次のように言い換えられたらどうでしょう?

 「私の知人のように、不合理な選択をしてしまった犠牲者もいる」
 「私の知人のように、向こう見ずな行動をしてしまった犠牲者もいる」
 
つまり、「バカ」を「不合理」や「向こう見ずな」と言い換える。言いたいことはそのままに、表現としてはかなり緩和されていると思いませんか?(この内容が批判されるかどうかは別問題で、あくまで表現のスタイルの問題です)

 僕の言いたかったこととは、軽率にも「バカ」という語彙を選択してしまった政治家の「愚かさ」ということになります。

 おそらく、僕の経験に即して言いますが、日本語教育には、このような語彙の選択に関する感受性というのは、プログラムされていないということに問題があるような気もします。なので、はっきりと「バカ」なんて言葉を乱用してしまうんだろうと思います。もし、この直感が正しいなら、政治家の失言というのは、日本語教育の欠陥にまで拡張できてしまうのかもしれません。

 フランス語の話に移しましょう。同じ「バカ」を表現する場合でも、フランス語には、時と場合によって、絶対に使うのが好ましくない語彙として存在します。

 口語では、かなりよく使われる語彙に、con なんて形容詞がありますが、これは初対面の人に使わない。たとえ自分のことを「バカ」と表現するにしても。というのも、これは、très familier な表現で、極めて親密な間柄で使われるべき言葉です。

 さらに、強烈な語彙は、con に「侮蔑」の意味をあらわす接尾語、-ard や -asse をつけて、connard(男性に対して)やconnasse(女性に対して)なんて表現もあります。使う場合はくれぐれも気を付けて…。

 さて、「バカ」と言いたい場合にも、フランス語には色々な表現があります。ためしに、類義語の辞書(Le Robert, Dictionnaire des synonyme)の bête の項目を引いてみると、これだけの豊富な言い換えが可能です。勿論、ニュアンスは各々異なります。Bête や、その名詞化のBêtise は、ラテン語の「獣」を意味する bestia  から由来しており、「人間らしい思慮分別を欠いた状態」のニュアンスが含まれています(他の形容詞に関しては、力尽きました…)

 Bête
1- idiot : abruti, crétin, débile, imbécile, inepte, niais, nigaud, obtus, sot, stupide, bébête*, bêta*, bêtasse*, cloche*, couillon**, cruche*, con**, taré*, tartignole*
2- étourdi : inattentif
3- simple : élémentaire, enfantin

単語に * とつけたのは、familier で、親密な間柄でのみ使われる場合。 さらに親密な間柄très familierで使われる表現には ** を付けておきました。

 いわゆる「バカ」は1の意味です。2や3の意味、つまり「ぼうっとした・不注意な」とか「単純な・要素的な」なんて意味もあります。

 もし、書き言葉で「バカ」と言うとしたら、僕は何を選ぶかなぁ…、imbécile や、ちょっと古い言葉の sot を選びますかね。間違っても、con ではない訳です。

 蛇足ですが、ボードレールの『悪の華』の書き出しの一語は、sot の名詞化、 sottise 「愚かさ」で始まっています。まぁ僕もこういうところから、書き言葉は sot を選ぶ、というわけですが。

La sottise, l’erreur, le pêche, la lésine,
Occupent nos esprit et travaillent nos corps,
Et nous alimentons nos aimables remords
Comme les mendiants nourrissent leur vermine.

愚かさ、誤り、罪、吝嗇は、
われらの精神を領し、肉体を苦しめ、
われら、身に巣食う愛しい悔恨どもを養うさまは、
乞食たちが蚤(ノミ)や虱(シラミ)をはぐくむにも似る。

(日本語訳は、阿部良雄訳(ちくま文庫)による)

 類義語に関する感性を養う、多分必要なことじゃないかなぁと思います。とりわけ失言続きの政界人たちにとっては。

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